7-Q&A
よくある質問をQ&A形式でまとめました。
目次
- Q1.過労死、過労自殺(自死)とは、どのようなものをいうのでしょうか。
- Q2.過労死・過労自殺(自死)は、どのような要件を満たせば労災と認められるのでしょうか。
- Q3.非正規やアルバイト、請負や委託で働いていた場合でも、労災の適用がありますか。
- Q4.過労死・過労自殺(自死)の労災申請は、どこに対してするのでしょうか?
- Q5.労災申請をすることができるのは、誰なのでしょうか?
- Q6.労災認定されるには、どのような資料が必要なのでしょうか?
- Q7.労災認定されると、どのような給付が受けられるのでしょうか?
- Q8.会社が労災申請に協力してくれない場合は、どうしたらよいでしょうか。
- Q9.労基署で労災と認められなかった場合は、どのような手続きが可能なのでしょうか?
- Q10.労災申請ができる期間はいつまででしょうか?
- Q11.公務員の場合、民間労働者の場合と違いはあるのでしょうか?
- Q12.会社への損害賠償請求はできるのでしょうか?
また、会社の経営者やパワハラ上司個人に対する損害賠償請求についてはどうでしょうか? - Q13.過労死等を発生させたことについて、会社が刑事責任を負うことがあるのでしょうか?
- Q14.労災申請を弁護士に依頼するメリットは、どのようなものがあるのでしょうか?
- Q15.労災申請を社会保険労務士に依頼することもできるのでしょうか?
- Q16.弁護士に依頼するのは、どのような段階がよいでしょうか?
- Q17.弁護士に依頼する場合、どのような弁護士に依頼するのがよいでしょうか?
- Q18.弁護士に依頼する場合、どのくらいの費用がかかるのでしょうか?
- Q19.過労死や過労自殺(自死)に詳しい医師の協力が必要な場合があるのでしょうか?
- Q20.労死家族の会に入会することはできるのでしょうか?
Q1.過労死、過労自殺(自死)とは、どのようなものをいうのでしょうか。
A「過労死」とは、働きすぎて死亡すること、すなわち、仕事での無理がたたり、脳出血や脳梗塞といった脳血管疾患、心筋梗塞や心不全などの虚血性疾患、さらには、喘息や十二指腸潰瘍、白血病や肝臓癌などの病気を患い、命を落としてしまうことを指します。また、仕事で強いストレスに晒された結果、精神疾患を患い、自殺に至ることも「過労死」に含まれます。
過労死等防止対策推進法や労働基準法施行規則には、過労死に関する規定がありますが、上記のような社会的に通用している「過労死」よりも狭く捉えられています。私たちは、社会的に見て過労死といえるものについては、認定基準の適正な運用や、さらには改正によって広く救済されるべきだと考えています。
Q2.過労死・過労自殺(自死)は、どのような要件を満たせば労災と認められるのでしょうか。
A過労死・過労自殺(自死)が認定されるためには、厚生労働省が定めた認定基準を満たす必要があります。
- 発症直前から前日までの間において、発症状態を時間的および場所的に明確にし得る「異常な出来事」に遭遇したこと
- 発症前おおむね1週間に日常業務に比較して特に過重な身体的、精神的負荷を生じさせる業務に従事したこと
- 発症前おおむね6か月間に著しい疲労の蓄積をもたらす特に過重な業務に従事したこと
のすべてを満たすときに、労災の適用を受けることになります。
- 対象疾病を発病していること
- 対象疾病の発病前おおむね6か月の間に、業務による強い心理的負荷が認められること
- 業務以外の心理的負荷および個体側要因により対象疾病を発病したとは認められないこと
のいずれかの条件をすべて満たした場合には、労災の適用があります。
もっとも、この認定基準にただちに当てはまらない場合や、脳・心臓疾患以外の病気で亡くなった場合も、救済されるべき場合があると思われるので、まずはご相談ください。
Q3.非正規やアルバイト、請負や委託で働いていた場合でも、労災の適用がありますか。
A労働者であれば、勤務先の会社が労災保険料を支払っていない場合であっても、労災の適用があります。これは、アルバイトやパートの方でも同じです。派遣労働者の場合は、派遣元の会社で労災の適用となります。
請負や委託の場合は、原則として労働者ではありませんので、労災の適用がありません。ただし、業務の実態から労働者と認められるような場合は、労災の適用が認められるべきです。
厳密には労働者と認められない場合であっても、自ら労災保険料を支払って、任意に特別加入をしていれば、労災の適用を受けられることがあります(労災保険法33条)。
Q4.過労死・過労自殺(自死)の労災申請は、どこに対してするのでしょうか?
A被災者が勤務していた事業所を管轄する労働基準監督署(労基署)に対して、労災申請を行います。
正確には、脳心臓疾患や精神疾患を発症した時の事業所を管轄する労基署に申請を行います。過労自殺(自死)の場合は、発症した時の事業所と亡くなった時の事業所が違うことがありえますので、事前にご相談ください。
Q5.労災申請をすることができるのは、誰なのでしょうか?
A労災申請を行えるのは、本人(存命の場合)又は遺族です。
遺族は、①配偶者(内縁を含む)、②子、③父母、④孫、⑤祖父母、⑥兄弟姉妹の順序で申請を行うことが出来ます(労働者災害補償保険法11条1項・2項・3項)。入籍していない事実婚の方や同居していない親族の方も申請できる可能性がありますので、ご相談ください。
Q6.労災認定されるには、どのような資料が必要なのでしょうか?
AQ2のように認定基準があり、その認定基準を満たすための資料の提出が必要です。
たとえば、労働時間を証明するもの(タイムカード、給与明細等)やパワハラを示す証拠(上司からのメールや録音等)が必要になります。
もっとも、どのような資料が必要かは事案によって異なります。手もとに必要資料がなくても証拠保全等で入手することが可能な場合があります。
このような資料の収集が最も重要ですので、当事務所にご相談ください。
Q7.労災認定されると、どのような給付が受けられるのでしょうか?
A給付内容は、次の通りです。
〈死亡した場合〉
遺族年金(遺族の人数に応じて給付基礎日額の131日~313日分の年金。)
- 遺族一時金(遺族年金を受け取れないと場合。給付基礎日額の1000日分。)
- 葬祭料・葬祭給付
- 遺族特別支給金(遺族の数に関わらず一律300万円)
- 労災就学等援護費(遺族年金受給者等で一定の要件を満たす場合)
など
〈ご存命の場合〉
- 療養補償給付(療養費用の支給など)
- 休業補償給付(休業4日目から休業1日につき給付基礎日額60%相当額)
- 休業特別支給金(休業4日目から休業1日につき給付基礎日額20%相当額)
- 傷病補償年金(療養開始後1年半を経過しても治癒せずその障害が傷病等級に該当する場合、障害の程度に応じ給付基礎日額の313日分~277日分の年金)
- 傷病特別支給金(障害の程度により114万円~100万円までの一時金)
- 傷病特別年金(障害の程度により基礎日額の313日分~245日分の年金)
- 労災就学等援護費(傷病補償年金受給者で一定の要件を満たす場合)
など
各給付にはそれぞれ要件がありますので、ご相談下さい。
Q8.会社が労災申請に協力してくれない場合は、どうしたらよいでしょうか。
A労災申請は、所定の請求書等に必要事項を記入し、労働基準監督署に対して申請を行います。請求書は、全国の労働基準監督署に備えられているほか、インターネットでもダウンロードが可能です。請求書には、事業主(会社)の証明が必要な事項がありますので、事業主に協力を依頼することになります。
しかし、会社は、労災申請の協力を拒否することがあります。労災が発生した場合、会社は労働基準監督署から指導や監督を受ける可能性があることなどから、遺族が労災申請を行うことに消極的になるのです。
もっとも、会社が証明を拒否するような場合には、会社が拒否をしたことを労働基準監督署で説明すればよく、労災の申請を受け付けてくれます。
Q9.労基署で労災と認められなかった場合は、どのような手続きが可能なのでしょうか?
A労災と認められなかった場合(不支給決定)を争うには、以下のような手続があります。
①審査請求
まず、労働基準監督署長の不支給決定については、労働者災害補償保険審査官に対する審査請求という不服申立てを行うことができます。不服申立てができる期間は、不支給決定という処分がなされたことを知った日の翌日から起算して3か月以内です。
②再審査請求
審査請求の結果、判断が覆れば良いのですが、やはり不支給という判断が維持された場合には、労働保険審査会に再審査請求を申し立てることになります。不服申立てができる期間は、審査請求を棄却する決定がなされたことを知った日の翌日から起算して2か月以内です。
③不支給処分の取消訴訟
労働保険審査会の判断(これを裁決といいます)によっても不支給決定が覆らない場合には(例外的に、裁決を待たずに訴訟提起できる場合もあります。)、最後に不支給決定の取消しを求めて裁判所に訴訟を提起することになります。
※手続の具体的な流れについては、本サイトの「2-労災手続・裁判について」をご参照ください。
Q10.労災申請ができる期間はいつまででしょうか?
A労災請求権には請求する給付ごとに2年ないし5年の時効があります。
具体的には、労災事故の発生した日(死亡した場合は死亡の日)の翌日から起算して、
- 療養補償給付、休業補償給付、葬祭料、介護補償給付については2年
- 障害補償給付、遺族補償給付については5年
が経過すると時効により請求できなくなります(各給付の意味については、Q7をご参照下さい)。
したがって、できるだけ早いタイミングで申請手続きを行う必要があるでしょう。
Q11.公務員の場合、民間労働者の場合と違いはあるのでしょうか?
A公務員の場合、労災手続とは異なり、公務災害認定手続をとる必要があります。
地方公務員の場合は、各都道府県等に置かれている地方公務員災害補償基金支部長に対して、公務災害の認定を求めることになります。国家公務員の場合は、各省の補償実施機関に対して、公務災害の認定を求めることになります。
公務災害についても、労災申請と同様、弁護士に依頼して手続を行うことが可能です。
Q12.会社への損害賠償請求はできるのでしょうか?また、会社の経営者やパワハラ上司個人に対する損害賠償請求についてはどうでしょうか?
A過労死や過労自殺(自死)の遺族は、一定の要件の下で会社に対して損害賠償請求をすることができます。会社は、業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷が過度に蓄積して労働者の心身の健康を損なうことがないように注意する義務を負っていることから、会社がこの注意義務に反して労働者を働かせ、その結果労働者が過労死又は過労自殺(自死)に至ったと認められる場合には、不法行為(民法709条、715条)ないし債務不履行に基づく損害賠償請求(民法415条)をすることが可能です。
会社の経営者に対しては、上記の不法行為(民法709条、715条)のほか、取締役の責任(会社法429条など)を追及できる場合もあります。
また、パワハラをした上司個人に対しても、その上司のパワハラが不法行為に当たると認められる場合には、損害賠償請求をすることが可能です。
なお、上記の損害賠償請求は、労災申請とは別に請求することが可能です。また、労災が認定されなかった場合でも請求できる場合がありますので、いずれにしろ、なるべく早い時期にご相談ください。
Q13.過労死等を発生させたことについて、会社が刑事責任を負うことがあるのでしょうか?
A過労死や過労自殺(自死)の原因に、会社や使用者の労働基準法や労働安全衛生法違反(例えば違法な時間外労働や時間外手当の不払い、健康診断の不実施など)があった場合には、刑事罰を受けることがあります。もっとも、過労死や過労死自殺を発生させたこと自体について、殺人罪(刑法199条)や業務上過失致死罪(刑法211条)等の成立が認められることは一般的には困難と思われます。
Q14.労災申請を弁護士に依頼するメリットは、どのようなものがあるのでしょうか?
A以下に列挙するように、多くの点でメリットがあるといえます。
- 被災者が過労死・過労自殺(自死)するまでの労働実態に関する重要な事実の抽出
- それを裏付ける資料の収集(裁判所の証拠保全手続きの活用も含めて)
- 事実を認定基準に精緻に当てはめて、労災として認定することを求める代理人意見書の作成
- 労災申請後も労基署の担当調査官と折衝し、追加資料や追加意見書を提出する
- 不認定となった場合に、審査請求、再審査請求、さらには行政訴訟まで一貫して担当することが可能
- 申請者の行動が求められる場合(労基署での聴き取りや、関係者への協力依頼など)にも、よく打ち合わせを行い、激励する
- 医師などの専門家の協力を得る場合の橋渡し役をする
- その他、様々な困難や悩みに寄り添い、二人三脚で進めていく
Q15.労災申請を社会保険労務士に依頼することもできるのでしょうか?
A社会保険労務士(社労士)も、労災申請や審査請求、再審査請求手続きを代行・代理することができます。
もっとも、
- 労災申請や訴訟に備えて証拠を確保するための証拠保全(民事訴訟法234条)の申立て
- 再審査請求まで争っても不支給決定が覆らなかった場合の行政訴訟の提起
- 会社に対する損害賠償請求訴訟(民事訴訟)の提起
- 会社との示談交渉
など、弁護士でなければできない手続きも多く存在することからすれば、手続きの最初の段階から弁護士に依頼するメリットは大きいと言えます。
Q16.弁護士に依頼するのは、どのような段階がよいでしょうか?
A弁護士への依頼は、労災申請、審査請求、再審査請求、行政訴訟のどの段階からでも依頼することができますが、依頼するのであれば、最初の労災申請から依頼されることをお勧めします。なぜなら、労基署段階で主張立証に全力を尽くし、労災認定を勝ち取ることが最も重要だからです。いったん労基署で業務外とされてしまうと、その後の手続きでこれを覆すことは容易ではありませんし、長い期間と労力を要します。
Q17.弁護士に依頼する場合、どのような弁護士に依頼するのがよいでしょうか?
A医師や建築士と同じように、弁護士でも得意分野や専門分野があります。過労死・過労自殺(自死)事件は極めて専門性が高く、どの弁護士も十分な対応ができるわけではありません。そこで、過労死・過労自殺(自死)事件を多く手がけ、また過労死弁護団や過労死110番の活動に積極的に参加している弁護士に依頼すべきです。
また、過労死・過労自殺(自死)事件は、主張立証に相当な作業を要し、1人の弁護士では十分にこれを行うことが難しいことから、複数の弁護士が弁護団を作って取り組むことが望ましいケースも多くあります。
Q18.弁護士に依頼する場合、どのくらいの費用がかかるのでしょうか?
A一般に、弁護士に依頼した場合に支払う費用は、①着手金、②実費、③報酬金の3つがあります。当事務所の場合は、本サイトの「6-費用について」をご参照ください。
Q19.過労死や過労自殺(自死)に詳しい医師の協力が必要な場合があるのでしょうか?
A過労死(脳・心臓疾患)の場合も過労自殺(精神疾患)の場合も、労基署は嘱託医(局医といいます)に、業務上か業務外かについて意見を求めるのが一般です。そのため、申請をするに当たって、労働医学や認定基準に詳しい医師(脳神経外科医や精神科医)に協力を求め、医師意見書を作成してもらうことが有効な場合があります。
その要否も含めて、依頼した弁護士としっかり相談することが重要です。
Q20.過労死家族の会に入会することはできるのでしょうか?
A過労死家族の会(現在、全国各地に16の家族の会があります)に入ると、過労死遺族同士が励まし合ったり、経験交流をしたり、相互に傍聴支援をすることなどができます。過労死家族の会に入会するには、各地の会に直接入会の相談をすることもできますし、過労死家族の会とつながりのある弁護士に仲介してもらうことも可能です(当事務所からもおつなぎできます)。